「神が愛した天才数学者たち」(吉永 良正)

 

自分は子供の頃から算術というものが好きで、
それなりに自信もあった。

けれど、図形の問題になると全然ダメ。

補助線を引いたり角度を求めたり、
同じ算数とは思えないぐらい、苦手だった。

僕の入学した開成中学には、
吉田勝郎先生という、幾何学の名物先生がいらっしゃって、
非常に特殊な授業をなさっていた。

いま振り返ると、あれはユークリッドの「原論」に則した授業だったのだと思う。

中学一年生で、「原論」を体験できたというのは、
ある意味贅沢だったのかもしれない。

ただ、当然ながら図形への苦手意識が強かったために、
(そもそも中学二年ぐらいから全く勉学をしなくなってしまったのだが)
幾何学などというものは、自分にとって遠い存在になっていたような気がする。<br/ >

それが変わったのは、高校を辞めて、ようやくちゃんと大学受験の勉強をし始めたときに、
ベクトル方程式に出会ったのがきっかけだった。

代数と幾何の融合。
それはまさしくデカルトの偉業だったわけだけれども、

ともあれ、数式を使って二次元や三次元の空間を描写できるということは、
僕の中の世界観を大きく変えてくれたような気がするのである。

そう考えると、三角関数も微積分もとても魅力的な分野に思えてきて、
自分は文学部に進むと決意していたにもかかわらず、
数学にはそれなりの勉強時間を割いていた(受験科目だったせいもあるけれど)。

大学に入学してからも、数学の授業は細々と受講し、
以来、数学好きの「心」は今でも失っていないものと自負している。

この本は、数学好きの人であれば誰もが知っているような、
「数学界の偉人」たちについての入門書的人物伝である。

特にアーベルとガロア、ガウスのあたりのくだりは、
物語性を持たせて劇的に描かれていて、

彼らの偉業が学問的にどのような価値があるのかを知ることは難しいが、
数学に人生をかけた者たちの生き様を読み取るには、十分であろう。

他の科学分野とは異なり、数学とはそれ自身が方法でもあり、目的でもある。

それゆえに、そこに没頭する人は魅力的なのである。