樋口 恭介 編「異常論文」(ハヤカワ文庫JA)
「異常論文」というジャンルを、
この本で初めて知ったわけだが、

シンプルに言ってしまえば、
「論文の形式で書かれた小説」
ということになる。

ほぼ完全な論文形式の作品もあるが、
テーマはフィクションなわけで、
そういう意味では、
広い意味での「SF」となるわけだが、

ただ、とても論文には見えない作品も、
多々混じっており、

僕的に「異常論文」を定義するならば、
ストーリーが存在せず、
作者が好き勝手な妄想を語った文章、
となろうか。

作者の妄想から生まれた文章が、
作者の意志とは別に、
細胞分裂をするかのように増殖していき、
ついには自らをも喰い尽くしてしまうかのような、

小説と論文とエッセイともつかない、
何とも不思議なジャンルであることは間違いない。

この本に収められているのは、
そんな「異常な」作品が20数編、
1作品を読むだけでもかなり骨が折れるが、

うーん、でも、佳作と呼べるのは、
ほんの一握りで、

残りは、支離滅裂というか、
たしかに「異常」には違いないが、

わざわざコストと時間を費やして、
読む価値があるかと問われれば、
???なものがほとんどで、

それでも読みたいという、
マニアック指向の読者向けだろう。

ただ、敢えてポジティブに評するならば、
これらの作品は、

小説としてのストーリーも、
論文としての中身(そもそもフィクションだし)も、
そもそも備えておらず、

文章そのものが目的というか、
(矛盾するようだが)読まれることを想定しないというか、

読み進めるうちに、
「作品としての文章とは何か」という、
なかなか深いテーマを浮き彫りにさせてくれる、
興味深い存在であることは間違いないだろう。