リチャード・オクラ・エルウィス  著「マスペディア 1000」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
数学とは可哀想なもので、
何かあるたびに、
「数学は生活の役に立たない」
と言われてしまうわけだが、

そもそも、学問の大部分は、
生活の役に立ちなどはしない。

もちろん、例えば電子工学や建築学は、
我々の生活に直接関わっているし、

その「道具」である数学も、
また同様であるわけだが、

でもそれらの学問を通じて、
世の中に貢献している人なんて、
ごくごくわずかであって、

僕を含めた一般庶民からすると、
やはり学問などというものは、
生活の役に立ちはしないのだ。

ではなぜ学問をするのか。

その答えは明確で、
生活の役に立たないからこそ、

要は人生の損得勘定を外れた場所で、
考え、そして知る楽しみを味わうこと、
これにつきる。

そういう意味では、
趣味に近いとも言える。

「数学なんてクソくらえ」
と思っている人でも、

ゴルフを嗜んだり、ピアノを弾いたり、
賭け麻雀をしたりするでしょう。

でもそれが生活の役に立ちますか?

答えはノーだ。

学問もそれと同じで、
それをすること自体が目的であり、
楽しみであり、
そこには何の下心もない。

それなのに
なぜ学問、しかも特に数学ばかりが、

「何の役にも立たない」などと、
目の敵にされるのか、
僕には到底理解できないのである。

自分のことを語るならば、
大学受験ではベクトル方程式がとにかく好きで、

大学入学後は、国文学専攻ながら、
行列の授業だけは、
(たぶん)真面目に聴講していた。

その後しばらく数学のことは忘れていたが、
数年前に突然、
むくむくと数学熱が湧き始め、
数学検定(準1級止まりだが)にチャレンジしてみたりもした。

まぁ、僕の数学なんてものは、
理系の人からしたら遊び程度のものなのだが、

数学を考えるときの、
あの生活をすべて忘れて、
(だから生活の役に立つはずがないのだ)

答えに向かってひたすら突き進むときの快感は、
何モノにも代えがたいものであって、

おそらくその喜びを味わったことがない人が、
「数学なんてクソくらえ」
などとというのであろうが、

それは、グールドを聴いたことがない人が、
「バッハ?グールド?そんなの古臭いねぇ」
というのと同じで、

そもそも話が噛み合うわけがない、
いや、噛み合う必要もない。

・・・・・・・・
・・・・・

ということで、
前置きがやたらと長くなってしまったが、

数学を専攻する人にとっては、
いざ知らず、

僕みたいな「冷やかし数学好き」には、
ちょうどよい内容・難易度なのが、
この本。

数論、幾何学、代数学、
離散数学、解析学、論理学、
超数学、確率・統計学、数理物理学、

大学入試までの知識でも理解できるものから、
チンプンカンプンなものまで、

浮世離れした数学の世界を堪能できる、
まさに「読む数学事典」。

枕にするにも、
ちょうど良い厚さです。