第三十七番歌

【原歌】
白露に風の吹きしく秋の野は
つらぬきとめぬ玉ぞ散りける
(文屋朝康)

【替へ歌】
秋の野に散りしく玉を手に取れば
かたち残さず冷たさの沁む

露=玉、という見立ては平凡だし、
やや理屈っぽいのが難点ではあるが、

野に吹く風によって露が舞うさまは、
まるで玉が散るようだと詠う原歌には、

まるでスローモーションの映像を見るかのような、
視覚的な美しさがある。

これ以上、視覚面で勝負はできないので、
替へ歌では、あえて「白露」とはいわず、

「玉」を手に取ったときの触感を通じて、
それが「露」であることを表現してみた。

第三十八番歌

【原歌】
忘らるる身をば思はず誓ひてし
人の命の惜しくもあるかな
(右近)

【替へ歌】
我が身より惜しき命のあるものを
虚しき恋を誓ひしばかりに

原歌を現代語訳すると、
こんな感じか。

あなたに忘れられた私の身は、
どうでもいい。
ただ、一緒になることを誓ったあなたの命が、
失われるのが、とてもつらい。

いかにも女流歌人らしい作品で、
「私のことを捨てたから、あなたは死ぬのよ」
というホンネが、そこにはある気がする。

一緒に誓ったといっても、
所詮それは実ることのない、
「虚しき恋」だったわけで、

そんな誓いをしてしまったばかりに、
お互い不幸になったのね。