第四十三番歌

【原歌】
逢ひ見てののちの心にくらぶれば
昔はものを思はざりけり
(権中納言敦忠)

【替へ歌】
恋心打ち消す如くすでに我が
肉体は知りぬ愛の温度を

第四十三・四十四番歌は、
歌自体も作者名も似ていて、
ちょっと紛らわしい。

こちらの四十三番歌は、

あの人と実際に愛し合ってみると、
以前の気持ちとは比べ物にならないぐらい、
好き度合いが増してるなぁ、

という、
まぁ言ってしまえば、
結局は「肉体>心」というか、

前回、前々回に紹介した「忍ぶ恋」など、
セックスに比べれば大したことないぜ、
というそんな歌。

内容自体は嫌いじゃないのだが、
それをいかにも男性歌らしく、
理屈っぽい言い回しになっているのが、
イマイチ垢ぬけないところで、

替へ歌ではズバリ、
「肉体>心」という恋愛事情を表現してみた。

恋心が、セックスの快楽に上書きされる。

第四十四番歌

【原歌】
逢ふことの絶えてしなくはなかなかに
人をも身をも恨みざらまし
(中納言朝忠)

【替へ歌】
逢へばただ恨むばかりと知りながら
また逢ふことを頼みつるかな

あの人のことや自分のことを恨むぐらいなら、
いっそのこと逢わない方がよかったのに、

という、
これまた理屈っぽい恋の歌。

理屈っぽいわりに未練がましいというか、
まわりくどいというか、

でもなんか気取ってるところもあって、
ちょっとイラッとする(笑)。

替へ歌の方は、やや女性歌っぽく、
感情をストレートに詠む形で、

逢えば恨んでしまうのは分かっちゃいるけれど、
でもやっぱり逢いたいんだよね、

とした。

こっちの方が恋愛感情としては、
自然だと思うのだが、どうだろうか。