第四十九番歌

【原歌】
御垣守衛士の焚く火の夜は燃え
昼は消えつつものをこそ思へ
(大中臣能宣朝臣)

【替へ歌】
夜は燃え昼は消えつつあてもなき
恋火をただに守りつるかな

「御垣守衛士の焚く火の」という、
序詞が特徴的な原歌。

昼はぐっとガマンして、
夜になるとやたらと逢いたくなるという、

現代でいえば職場恋愛みたいな状況を、
想像してみるとよいのかな。

ただやはり序詞が、
あまりにも現代向きではないので、

替へ歌では素直に、
燃え上がる想いを「恋火」と表現し、

成就するかどうかも分からないその恋の火を、
消えないようにむなしく守り続ける、
という設定にした。

第五十番歌

【原歌】
君がため惜しからざりし命さへ
長くもがなと思ひけるかな
(藤原義孝)

【替へ歌】
君がため削りし命の重さだけ
いま過ごしつる逢瀬(とき)に加えて

男性歌人による恋の歌には、
女々しいものが多いとは、
再三述べていることではあるが、

この原歌はちょっと別で、
「君と付き合えるなら、この命は捨ててもいいぜ」
という心境から、

いざ付き合った後は、
「君とは一秒でも長く一緒にいたいんだよ」
という、

女々しいと言われればその通りなんだけど、
「恋のbefor&after」的な感情を、
巧みに表現した名歌といっていいだろう。

ここまで完成度が高いと、
替へ歌するにはプレッシャーがかかるわけで、
現代風(?)にして逃げるしかない。

君と付き合う前に削った命の重さ分を、
いま逢っているときの充実度に転換した、
という趣旨。

エネルギーというものは、
総量を変えずに転換できるもので、
(エネルギー保存則)

以前苦労した分が、
今の幸福につながっているというのは、
何も恋愛に限ったことではない。