普段絵画にばかり慣れていると、
如何に色や造形を「プラス」しているかに目が行きがちだが、
彫刻というのは、(当たり前だが)「削る」、
すなわちマイナスする芸術である。
ジャコメッティ関連の本は、日本では手に入るものが限られていて、
今回「アルベルト・ジャコメッティ~本質を見つめる芸術家~」というDVDを購入した。
「本質を見つめる芸術家」という邦題はどうかと思う。
そもそも、本質を見つめない芸術家などというものは、いない。
原題は確か、「Eyes on the Horizon」。
ジャコメッティの目を通して眺めた人間というものは、
あまりにも削るべき部分が多かったのだろう。
彼がとりわけ拘った目、そして精神性ともいうべきものを残して、
存在の形状を極限まで削ったのが、彼の作品ではなかろうか。
「命を削る」という表現があるけれども、
彼の彫刻達は、命は削られていない。
むしろその逆で、
形を削ることで命の存在というものを浮き彫りにさせているのだ。
結果としては、シーレの描く人物とどこか似通っているのかもしれない。
しかし冒頭に書いたように、
絵画と彫刻では、本質に迫るアプローチは全く逆である。
プラスをすることで辿りついた結果と、
マイナスをすることで辿りついた結果が似てしまったというのは、
ある意味とても興味深い。
いつかそんな比較もしてみたいと思う。