先日、義太夫を聴きにいった際、相撲甚句の披露中に、
裏の楽屋から微かに三味線の音が聞こえてきた。
普段ならそのようなことはないのだが、小さな会場だったので、幸いにも?聞こえてきたのだろう。
甚句はそっちのけで、三味線の方に集中していると、音合わせの音を拾えた。
レ-ラ-レ(D-A-D)
で調弦している。
僕が普段弾いている津軽は、本調子ならば、ド-ファ-ド(C-F-C)の調弦で、
これは「四本調子」(雅楽なら「神仙」)と呼ばれるチューニングなので、
義太夫はそれよりも全音高い、つまり「六本調子」(「壱越」)なのだな、と漠然と思っていた。
※僕の耳が正しければ、おそらく二上がりで調弦していたことになる。
ちなみに、この「壱越(いちこつ)」というのは、日本の雅楽ではベースとなる調律である。
せっかくなので、この機会に、邦楽の調律について表にまとめてみた(見づらいが)。
どうやら義太夫では、「壱越」は「六本調子」ではなく、「一本調子」と呼ぶようだ。
そして、他の三味線で「一本」(「黄鐘(おうしき)」としている調律のことは、「表一本」と呼ぶらしい。
上にも書いたように、雅楽では本来、「壱越」がベースなので、
これを「一本」とする義太夫は、ある意味日本の伝統に忠実だといえる。
ではなぜ、義太夫以外の三味線では、「黄鐘」の方を「一本」としているのかといえば、
実は雅楽の元となった、中国の古典音楽では、同じ調律でも全く違う呼び名が付いているわけなのだが、
唯一、「黄鐘」だけが、日本と中国とで共通した名前を使用している(表の赤字部分)。
これは推測なのだが、義太夫が「一本」と定めていた「壱越」は、中国式でいうと「黄鐘」なので、
それを(意図的に?)日本式の「黄鐘」の方に置き換えて、これを「一本」としたのではないだろうか。
呼び方についてはともかく、要は、三味線という楽器は、どのような調律も許されるということだ。
これはそもそも、三味線というのは浄瑠璃の伴奏楽器であるため、
唄い手(太夫)の声域に合わせる必要があるためだと思われる。
西洋音楽、例えばヴァイオリンの調弦が、G-D-A-Eで固定(稀に敢えて変える場合がある)なのと比べて、
なんと曖昧な、、、と思う方もいるかもしれないが、そこがまた三味線の魅力でもある。
そもそも音律も平均律じゃないし、ギターのようなフレットもないので、
西洋的な規律は、まったく当てはまらないわけだが。