映画「ガタカ」

 

先日、土星探査機カッシーニが約20年の任務を終えて、
土星へ突入するという「大往生」を遂げたわけだけれど、
そこで思い出したのが、この「ガタカ」。

火星をテーマにした映画は腐るほどあるが、土星となるとかなり少なく、

「イヴェント・ホライズン」の海王星、「ジュピター20XX」の木星(実際は金星)と並ぶ、
「外惑星」をテーマにした数少ない優良作品でもある。

今更この名作SFをどうこう言うつもりはないが、

出自や学歴などではなく、遺伝子がその人の価値を決定する、というシナリオは、
当初観たときはそれほどインパクトはなかったのだけれど、
あらためて観なおしてみると、リアルすぎて怖い。

実際に「優れた遺伝子」なのか「劣った遺伝子」なのかを決定することは難しいはずで、

この映画でもそこは明確にせずに、
あくまでも、「身体的欠陥」にかかわる遺伝子を持つ者を差別する、という形で表現しており、
そこが絶妙なリアリティを醸し出しているわけだ。

要するに、例えばアパルトヘイトのように、肌が黒い人を理由もなく差別するのとは違って、
きちんとした裏付けに基づいて差別が生じる社会、

それが見た目でも能力でもなく、
遺伝子という目に見えず、コントロール不可能なものによって左右される、というのが、
「SF以上、現実未満」の当作品の肝である。

そして、そのコントロール不可能なはずのルールを、
イーサン・ホーク演じる主人公が、巧妙な手口で破っていくところに、
この映画の「SF」としての面白さがある。

ところで、この映画の公開は1997年で、
これは奇しくもカッシーニの打ち上げと同じ年なわけだが、
主人公の目的は、土星の衛星であるタイタンへ行くことにある。

タイタンの全貌は、今回のカッシーニプロジェクトによって明らかになったわけだけれども、
映画の中で、主人公がわずかながらに語るタイタンの様子が、
カッシーニが明らかにした実際の姿と、大きく違わないところはさすがである。

これは余談であるが、
映画の冒頭2~3分のところ、上官が主人公に向かって語りかける部分の字幕が、

「君は優秀だから土星に行けるな」

みたいになっていたのが、おや?と思ったので、何度かリピートして見たが、
英語のセリフでは「Saturn(土星)」ではなく、明らかに「タイタン」と言っている。

このあとの部分ではすべて「タイタン」で統一されているのに、
最初だけ「土星」と訳されているのは、

おそらく、「タイタン」が土星圏の天体であることを知らない視聴者に対して、
親切の意味で敢えて「土星」としたのかと思うのだが、どうだろう。

まぁ、そんな細かいことはどうでもよく。

今観ても、全然古さを感じさせない名作だと思う。

適正価格:2,000円(劇場換算)