同じく井波律子さんの「中国名言集 一日一言」とペアになるような本。
名詩と呼ばれるものから、マイナーな作品まで、
唐代以降の詩人82人の137首を、ジャンル別に紹介したアンソロジーとなっている。
漢詩の鑑賞というのは、
まず白文を眺めてだいたいの意味を掴み、次に読み下し文でリズムを味わい、
そして注釈を読み、さらに現代語訳で細かな意味を理解し、
再度読み下し文に戻って、意味を分かった上で味わい直し、
最後に解説文を読む、
という、かなり中身の濃い作業を求められるわけだが、
とかく急いで情報を得ようとするこの現代社会にあって、
このような、まさに長大な歴史の流れに身を任せるようなのんびりとした読書も、
たまには悪くない。
漢詩というものは、外国文学でありながら、
日本人が上手く細工をして中国語を知らなくても楽しめるようにしたという、
とてもユニークなジャンルであって、
オリジナルの素晴らしさと、日本人による絶妙な読み下し文とを、
同時に会得できるからこそ、
言葉の美しさを楽しむもよし、意味の深淵さに感動するのもよし、
といった様々な角度からの鑑賞にも耐えうるものである。
すでに梅雨も明けて一気に真夏が来てしまった感じではあるが、
「晴日 暖風 麦気を生じ
緑陰 幽草 花時に勝る」(王安石)
などという一節に当たると、
現代人の失われた感覚のようなものを、
取り戻させてくれるように思うのである。