第五番歌

【原歌】
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の
声聞く時ぞ秋は悲しき
(猿丸大夫)

【替へ歌】
君と行きし奥山紅葉手に取れば
戻らぬ秋の鹿の音聞こゆ

原歌は、説明不要なぐらい明解で、
秋、悲しみ、鹿の声、
替へ歌ではこれらを再利用し、
「悲しみ」の正体を具体化するように心がけた。

今は別れてしまった恋人と出かけた、
奥山で拾った紅葉。

それを今、手に取ってみると、
あの幸せだった頃には決して戻れないが、
悲しい鹿の鳴き声が聞こえてくる気がする、
という歌意。

第六番歌

【原歌】
鵲の渡せる橋に置く霜の
白きを見れば夜ぞ更けにける
(中納言家持)

【替へ歌】
白き霜の置けるを見れば鵲の
翔ける夜空に冬ぞ来にける

原歌の「鵲の橋」とは、
七夕伝説の織女と牽牛が会えるように、
鵲が天の川に架けた橋のことで、

なぜ七夕なのに霜?
と思うかもしれないが、

ここでの「霜」は星のことを喩えて(「見立て」)いるのであり、
それがこの歌の面白みとなっている。

替へ歌では、原歌の「見立て」を敢えて無視し、
霜は文字通り、冬の訪れの合図とすることで、
素直な叙景歌にしてみた。