第十七番歌

【原歌】
ちはやぶる神代も聞かず竜田川
からくれなゐに水くくるとは
(在原業平朝臣)

【替へ歌】
ちはやぶる神の社に来てみれば
秋は溜まりぬくれなゐの川に

業平の歌で、
かつ人口に膾炙しているわりには、
原歌にはこれといった面白みがない。

ただ、屏風絵を見て詠んだといわれるだけあって、
川面を紅葉が覆い尽くしているという、
視覚的イメージは鮮烈である。

僕の中では、この情景は動的、
つまり紅葉が川に流されているというのではなく、

どちらかといえば、川は澱んでいて、
そこに一面の紅葉が浮いている、
という趣きなので、

替へ歌の方では、
「秋が溜まっている」
という表現にしてみた。

また、替へ歌の舞台を、
朱塗りの社殿がある神社にすることで、
川に浮かぶ紅葉とあわせた色彩感を強調した。

第十八番歌

【原歌】
住の江の岸に寄る波よるさへや
夢の通ひ路人目よくらむ
(藤原敏行朝臣)

【替へ歌】
別れてもまた逢う夜を咎むるか
夢路さえぎる住の江の波

原歌の、
「夢の中でさえ恋しいあなたは、
会ってくれないのか」
という片思いの心境をひとひねりして、

替へ歌の方は、
別れはしたのだが、
でもまだ一目を避けて会ってしまうという、
未練がましいの恋人たちの歌とした。

そしてその逢瀬を邪魔するかのように、
夢の中でさえも、
住の江の岸に打ち寄る波の音が聞こえている、
という意味。