特定のジャンルにおいて、一族で名前を残した例として、
音楽でのバッハ一族、数学でのベルヌーイ一族、
そして、絵画ではこのブリューゲル一族がその典型である。

特に今回のように、一度に多くの作品を目の前にする場合、
手元に系図を用意して鑑賞しないと、
あれ、これはどのブリューゲルだ?・・ということになりかねない。

そんなブリューゲル一族の出展作品の中でも際立っていたのは、
やはりピーテル・ブリューゲル2世の「野外での婚礼の踊り」。

 

「野外での婚礼の踊り」(ピーテル・ブリューゲル2世)

特に前面の人物たちの躍動感に注目しがちであるが、
僕としては、この作品の素晴らしさは全体の構図の妙にあると思う。

ポイントは縦に大きく伸びた2本の幹だ。

おそらくは遠近法を際立たせるために、
意図的にリアリティを犠牲にしてまでも、
2本の幹が、まるで画面の奥へ向けて伸びているように見せている。

さらに、2本の幹のほぼ中間の位置に、
この場の主役である花嫁(テーブルに向って座っている)を配置することによって、
テーマとしての安定感も確保しているわけだ。
(花嫁の表情が冴えないとか、花婿が見つからないとか、
そのようなディテールにはここではあえて触れないでおく)

この時代のフランドル絵画は、
一般的には、風景画の誕生に一役買ったと言われているが、

人物画と風景画の中間のようなこの作品においても、
画面の奥行を意図的に利用するという「風景画仕込みの技法」が用いられているのが、
個人的には興味深い。

もう1点、気になったのは、
ヤン・ピーテル・ブリューゲルによる「花の静物」。

 

「花の静物」(ヤン・ピーテル・ブリューゲル)

ブリューゲル一族のみならず、花の静物画は数多あるけれども、
ここまで極端に陰影を施したものは珍しいのではないだろうか。

これもある種の立体感というか、奥行きの表現だ。