ゴヤ展

画家、作曲家と呼ばれるすべての人物が、
真の意味での芸術家であったとは限らない。

特にゴヤやモーツァルトが活躍した、
ロココ華やかなりし18世紀後半から19世紀にかけては、

宮廷画家・宮廷音楽家という地位だけで、
形だけの作品を生み出していった「上辺だけの芸術家」が、
どれほど多かったことか。

ゴヤの作品は、たとえ素描の類であっても、
ひとつひとつにただならぬ気迫がこもっている。

だから観るものの心を打つ。
時代に媚びず、地位に甘んじず、己の魂を筆にこめる。

82歳での死の間際に、
「私はまだ学びたい」とつぶやいたその姿は、

同じく九十近くで息を引き取る際に、
「私が長生きしたらもっと良い絵が描けただろう」と言った葛飾北斎とダブる。

二人の没年は20年ほどしか離れていない。
同時期の東西に真の意味での芸術家がいたということは、
単なる偶然なのだろうか。

ゴヤの魅力は、人物の表情にあると思っている。

肖像画にしても、「カプリチョス」に登場する人物にしても、
ひとりひとりの表情がなんと個性的なことだろう。

今回の展示は、約120点がすべてゴヤ。
そのエネルギーを感じるには十分だった。

ただ、ゴヤの異才・奇才は、
日本ではもっと評価されてもいい。