「ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」(@Bunakamuraザ・ミュージアム)

「ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」(@Bunakamuraザ・ミュージアム)

「バロック」というと、音楽史的には、創生期にあたるが、
美術史的には、爛熟期である。

元の語義からすると、美術史における使い方のほうが正しいわけで、
単に同じ時代だからというだけで、
音楽史側が、同じ呼称を使うことにした。

美術と音楽とでは、
文化としての成熟のペースが、まったく異なる。

だからこれら双方のある時期を、
「バロック」のような共通の呼称で統一するのは、
かなり無理があるし、混乱の元だ。

要するに、「バロック」というのは、
絵画におけるピークである。

そしてそのピークの堂々たる王道にいるのが、
このルーベンスである。

ルーベンスの魅力をひとことで要約すれば、
デッサンの確かさからくる造形力の高さと、
人物の表情の豊かさ、だと思う。

たとえば、この「ヘクトルを打ち倒すアキレス」。

「ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」(@Bunakamuraザ・ミュージアム)

まずはカンバスのほぼ中央に円形の盾を配置し、
構図の安定を図るとともに、
見るものの視線を中央の二人に一気に集中させる効果がある。

そして何よりも特筆すべきは、
中央の二人の人物の描き方だ。

体を捻りながら、左手で長い槍を使う左の人物と、
こちらも反対側に体を捻りながら、
膝を落し、喉でその槍を受ける右の人物。

この複雑な姿勢を違和感なく描くには、
相当のデッサン力を要する。

どこかひとつが狂いさえすれば、
全体のバランスは大きく破綻することになる。

最後に注目したいのが、二人の表情だ。

息が詰まる空気の中で、一瞬の隙をついて、勝負が決まったこの瞬間、
やった側とやられた側は、まさにこんな表情をするに違いない、
という説得力に満ちているではないか。

遠景の観衆などは、
敢えて小さく、ぼかして描くことで、

中央の二人の姿を鮮明に浮かび上がらせるという仕掛けも、
もちろん怠ってはいない。

計算し尽され、天才の技が如何なく発揮された、
名画というべきであろう。

こんなルーベンスが堪能できる、価値のある展覧会だった。

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