「胎児の世界」(三木 成夫)

 

思えば中学時代に、夢野久作の「ドグラ・マグラ」のあとがきに、

この小説は三木成夫の「胎児の世界」を先取りしている、
的な説明を目にして以来、
随分と長い間、この名著の存在を気にはしていたのだけれど、

まさか新書になっているとも知らず、
そして何となく優先順位が下がり、読まずにきてしまった。

そして、もっと早く読めばよかったことを後悔している!

「個体発生は系統発生の反復である」というヘッケルの言葉のとおり、
ヒトの胎児が子宮の中で、魚類→爬虫類→哺乳類という変化を遂げる様子を、
イラストや図を使いながら明確に述べてゆく。

そして最終的には「いのちの波」、
つまり生命とは、そして進化とは何かという、
生命の存在意義にまで話が突き進む。

特に印象深かった部分として、
樹木に年輪があるように、
ウサギの歯にも7日おきに現われる明確な刻印があり、

この7日という周期が実は哺乳類にとって重要なのではないか、
そういえば一週間も7日だし、死者も7日単位で遠のいてゆく、
といったくだりは、

生命科学と人文科学をつなぐ架け橋として、
実に多くの示唆を含んでいるように思われた。

何よりも文章が魅力的である。

著者がまだ駆け出しの学者の頃、
鶏の卵の中にいる「ヒヨコになる手前の存在」の心臓に墨汁を注射するという、

素人からするととんでもない離れ業をやっていたときのエピソードなどは、
まるでその場に居合わせているかのような、
リアルな感覚を伝えてくれるし、

一行一行が、深い学識と考察に支えられていることが、
読んでいてとにかく楽しい。
なぜこれをもっと早く読まなかったか。

かつての「胎児の夢」を辿ってみることが、
「究極に」進化を遂げてしまった我々人類には必要なのかもしれない。