美術館図書館前駅を降り、イチョウ並木をくぐり抜ける。
足元には、橙色をした銀杏がびっしりと連なり、
都会では嗅いだことのないような、
上品な香りを漂わせている。
ピークは終わったけれども、
まだかすかに紅葉を残す信夫山をバックに、
背の低い美術館のフォルムが眼に入ってきた。
美術館を訪問する楽しみは、
ソフト面は勿論だけれども、
ハード面、つまり外観や内装といった、
建築そのものにも存在している。
この美術館は、美しい。
空気が冷たいせいもあったけれども、
凛としていて、でもどこか温かい。
そんな感じだ。
常設展を観ることにした。
日本画や、著名画家(ゴーガン、モネetc.)の洋画は、
概ね予想通り。
それらではなく、
今まで僕に馴染みのなかった画家たちの作品が、
強烈な印象を残してくれた。
これは、レジナルド・マーシュの「回転ブランコ」。
テンペラというのは、
こんな個性的な色合いを出せるのだということを、
初めて知った。
何といっても、テーマの選定と、
絵から伝わってくる躍動感が素晴らしい。
その他にも、アンドリュー・ワイエス、
関根正二といった画家を知ったことは、
大きな収穫だった。
そして最後に登場した、斎藤清の木版と、
長谷川潔の銅版。
素朴さの中に宿る、美しさ・神秘性というものを、
版画という技法を最大限活用して引き出している。
これはdrawingでは、決して表現できない。
テーマが手法を呼んだのか、
あるいは、手法がテーマを招いたのか。
美術の醍醐味は、ここにもある。