白隠といえば、絵画というよりもイラスト的な画風で、
柔和で親しみやすい絵を描く人、
というイメージが、一般的には強い。
でも、ひねくれモノの、
ukiyobanare的解釈としては、それとは逆。
白隠の絵ほど、「仏性」というか、
宗教的エネルギーを強烈に放っている絵は、
我が国には存在しない。
彫刻でいえば、円空とか木喰にあたるだろうか。
一見簡素なインターフェイスの中に、
とてつもない宇宙が潜んでいるのであって、
それは、修行僧が簡素な衣の奥に、
深淵な哲学を抱えているのと同じである。
もちろん、西洋の宗教画のような深刻さはない。
だからパッと見ただけでは、
そこからメッセージを受け取ることは難しいのではあるが、
少しでも仏教や禅の世界を覘いたことがある人であれば、
ひしひしと伝わってくるものがあるはずである。
この展覧会にも出展されている、
白隠の有名な作品に、「円相」がある。
紙にただ「○」が書いてあるだけのもので、
絵というよりは書に近いのかもしれない。
電子は原子核の周りを廻り、
地球は太陽の周りを廻り、
太陽系は銀河の周りを廻っている。
すなわち万物の根本には円運動があるのであって、
白隠がそんなことを知っていたはずもないが、
彼の書く「○」には、
そのような宇宙の原理が包含されている。
彼の描く柔和な表情とは真逆の、
激しく厳しい、禅の世界観である。