ここ最近、美術館でルドンを観ることが多くなった。
ルドンの魅力は、作風のヴァリエーションの広さだと思う。
例えば、セザンヌ、ルノワール、ゴーガン、マティス、モディリアーニ・・・と言えば、
それぞれの特徴的な色使いや構図などを、
ありありと思い浮かべることは容易だ。
しかし、ルドンの場合は、何をもって彼の特徴とすればよいのだろう。
木炭画、ゴヤのカプリチョスを彷彿とさせる石版画、
印象派あるいはコロー風の風景画、
モローのような物語性、フォーヴばりの色彩の狂宴・・・etc.
およそルドンが得意としなかった絵画のジャンルはないのではと思えるほどの、
多才ぶりであった。
だから、ルドンのどこが好き?とたずねられると、非常に困る。
上に書いたようなどれもが、彼の魅力であり、
その中からどれかひとつ、と言われても、その時の気分次第、としか答えようがない。
それでも敢えて一番を挙げるならば、
レッドオーカーの色調で描かれた、晩年の作品である。
「黒」を追求し、再び色彩へと戻り、
そして最後に辿り着いたのが、このレッドオーカーによるモノトーンの世界。
ルドン最後の作品となったこの「聖母」は、
未完であるというのが一般的な解釈であるが、
もはや完成しているかどうかは意味をなさない。
簡潔にして深みをもったこの聖母の横顔は、
あらゆる絵画性を自らのものとしてきた天才画家の、
最後の到達点を、静かに示している。