終戦前後の小屋暮らしを描いた『新方丈記』と、
百間が語った内容を文章化した『百間園夜話』を収録。
『新方丈記』については、
以前紹介した『東京焼盡』とほぼ同じ内容なので、
あらためてここで触れられることも少ないのではあるが、
あらたに追加になっていた内容で、
思わず笑ってしまったのが、
百間の師である漱石の思い出を語った部分。
たとえば、
空襲で家を焼き出された後、
百間と共に小屋で暮らすことになったメジロなのだが、
普段は一心に囀っているくせに、
百間が覗き込むと、途端に鳴くのを止めるという。
それが、漱石先生の家を訪ねた際に、
謡の声が玄関先まで聞こえていたのに、
呼び鈴を鳴らすとその声がぴたりと止み、
書斎に通されると、漱石先生が気まずい顔で座っていた、
というエピソードを思い起こさせる、というもの。
漱石から可愛がられ、
そして漱石を心から尊敬していた百間だからこそ、
嫌味のない軽妙さで書くことができたのだろう。
毎日のように空襲のあった、
まさに死と隣り合わせの生活だったはずなのだが、
こういう心の余裕というか、
自分の生活や思い出を客観視できる姿勢こそが、
まさに百間の魅力なのだと思う。