「名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件」(白井 智之)
このミステリー小説が優れている点は、
ズバリ、3点。

1.実際の事件をベースにしていること
1970年代に、米国のカルト宗教指導者として、
名を馳せたジム・ジョーンズ。

南米ガイアナに、
ユートピアを作るものの、
最後は900人以上で集団自殺をするという、

9.11テロが起きるまでは、
米国で最大死者数の事件(Wikipediaによる)を、
起こすこととなる。

そのジム・ジョーンズ(作中ではジム・ジョーデン)の、
ガイアナのユートピアで起きる連続殺人を、

潜入捜査で乗り込んだ探偵が、
解決していくというのが、
本作のストーリー。

新興宗教の信者だけで成り立つ、
孤立したコミュニティという、

まさにミステリーにはお誂え向きの設定を、
大胆に利用したのは、
見事だと思う。

2.多重解決推理の披露
不可解な連続殺人事件に対し、
この特殊な場所設定を存分に利用して、

探偵は、
・宗教信奉者による推理
・外部者による推理
という、
まったくことなる2つの推理を披露する。

(完璧ではないが)どちらもそれなりの説得力があり、
読者は、通常の推理小説のような謎解きのカタルシスに、
「待った」をかけられる。

3.大どんでん返し
多重解決推理の披露と、
その結果の集団自殺。

それにより事件は、
めでたく解決されたと思いきや、

最後に、これでもかと言わんばかりの、
大番狂わせ。

ストーリー的に同情できる部分もあるし、
これには良い意味で意表を突かれた。

逆に不満だった点としては、
とにかく文章が薄っぺらい。

特に序盤は、
ポルノ小説を読んでるのか?(エロ描写はないが)
と思えてくるぐらい、
文章の稚拙さが気になる。

また、登場人物の造形もイマイチで、
心情や内面葛藤などの描写も浅薄だし、

あと例えば、
英語が得意という設定のはずの主人公が、

ラスト近くで、
「psycho」という単語を読めない、
という状況が発生したりと、

ツッコミどころも多々ある。

なので総じて評するに、
ミステリーとしての出来映えは悪くないが、
小説としての読み応えはイマイチ。

若いミステリー愛好家には、
ウケるかもしれませんね。

個人的には嫌いではないが、
やはり、ジム・ジョーンズという、

実際の事件のインパクトに、
助けられている部分が大きいと思った。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です